命の終わり方

いつか必ず訪れる永別は突然来るものだよ

ICU 集中治療室

病院に向かう救急車を自宅の玄関前で見送る。
暫くすると、救急車に同乗している嫁からスマホにメッセージが届いた。
そこには搬送中のおばあちゃんの様子が報告されている。
それから家の戸締り、洗濯物のこと、作りかけの朝食のことなども細かく指示されていた。
こんな時は女の方がしっかりしているのか、主婦の強さなのか、緊急時とは思えない冷静な対応ぶりに感心した。
嫁に指示された当座の必要品をバッグに詰め込んで、救急車を追いかける形で病院に向かう。

家には子供だけが残されて留守番になるが子供といっても年齢的にはもう大人だ。
子どもは楽しみにしていた休日の予定をキャンセルしながら、
「家のことは大丈夫だから」
と気丈に振舞っていた。

私は車で救急病院に向かう。
休日早朝の道は空いていたが、つとめて安全運転に徹した。

病院に着くと救急搬送用の出入り口には先ほどの救急隊が既に到着していて、何やら報告書のような書き物をしていた。
救急隊も私に気付き「お大事にしてください」と声をかけてくれる。
こんな時は何て返事をすればいいのだろう。
「お心遣い痛み入ります。先ほどはありがとうございました。皆さまのおかげで大変助かりました。皆さまもどうかお気をつけて。」
こんな言葉が浮かんできたが結局声に出せないまま、軽く会釈をしただけで病院内に入った。
本当はもっとしっかりとお礼を伝えたかった。

そこは大きな病院だった。
右も左もわからず困惑していると、無人だった受け付け窓口に職員の姿が見えた。
事情を説明するとICU(集中治療室)までの道順を教えてくれた。
ICUに繋がる廊下の床には赤いテープが貼られていて、家族・関係者が迷わないように配慮されていた。
「ここより関係者以外立ち入り禁止」
そう書かれた扉を開くとそこはICU(集中治療室)だった。