命の終わり方

いつか必ず訪れる永別は突然来るものだよ

救急隊

救急隊が到着する。
子どもの絵本などに登場する救急車は身近に感じる乗り物だが、近くで見る実物はとても大きい車両だ。
家族が緊急の時に見るその大きな車体に、些か威圧感を覚えた。
この大きさでは細い路地に入り込むのは難しいだろうことはすぐに想像できた。
家の前まで入れるだろうかと心配になったがそれは杞憂だった。
大きな救急車はサイレンを鳴らさずに細い路地にスルリと入り込んできた。

驚いたことに救急隊は救急車1台ではなく、消防車も随伴していた。
さらに驚いたことに、救急隊員は全部で7人も来てくれたのだ。
7人とも体躯の大きな男たちだった。
一人の年寄りを搬送するのに7人もの屈強な男たちが集まってくれたのだ。
もし救急隊が来なければ自分一人でおばあちゃんを背負って2階から連れ出さなければならないと心のどこかで覚悟していた自分にとって、彼らの剛健な風貌はとても心強く感じれらた。
孤立無援の状況に強力な援軍を得たような頼もしさだった。

現場に到着してからの彼らの作業は迅速だった。
7人もの男たちがそれぞれの役割を理解し、一分の隙も無く働く。
玄関から家に入った救急隊員の靴を見て驚いた。
彼らの靴は全てが綺麗に並べられていた。
随分とくたびれた彼らの靴は日ごろの業務の厳しさを物語っていた。
靴の中敷きに隊員の名前が貼られているのは靴を履くときに自分の靴がすぐにわかるようにする工夫だろう。

私は救急隊が少しでも動きやすいようにと、玄関に無造作に放り投げられている子どもの運動用具や雑貨などを端に追いやった。
家人の靴も下駄箱に放り込み、救急隊の靴を近くに引き寄せる。
緊急事態の実際の現場で素人に出来ることなんて、こんな程度が精いっぱいなのだ。
とても非力だ。