命の終わり方

いつか必ず訪れる永別は突然来るものだよ

119番

ベッドに寝ているおばあちゃんをそのままに、すぐに救急車を呼ぶ。
119番
幸いこの電話番号はすぐに思い浮かんだ。
しかし自分の家の住所が出てこない。
緊急事態を目の当たりにすると人はこんなにも慌ててしまうのか。
ここは一旦落ち着こう。
自分に言い聞かせる。

電話の向こうで救急隊員が静かに語りかけてくる。
それはとても静かな声だった。
救急ですか?
住所はどちらですか?
症状を言えますか?
たぶんこんな内容だった。

緊急電話を切った後暫くして救急隊から折り返しの着信があった。
しかしその着信に気付くのが遅れてしまった。
119番は家の固定電話から発信したのだが、今は家の固定回線は殆ど使っていない。
電話と言えばスマートフォンで用を足している。
だから固定電話の着信音を小さくしていたのだ。
その着信に気付いたのは偶然だった。
着信を知らせる電話器の照明にたまたま気付いたのだ。

固定電話に掛かってきた見慣れない電話番号からの着信は救急隊からのものだった。
場所を確認したいという。
ウチは少々奥まった分かりづらい場所にある。
しかも近くの住所に同じ苗字の家があり、わかりづらさに拍車をかけていた。
受話器の向こう側で救急隊が説明する場所はウチではなかった。
救急隊から家の近くの見えやすい場所に出ていてくれと要望される。
休日の早朝、着の身着のままの服装で私は通りに出て救急車の到着を待つことになった。

救急車を待っている時間はとても長く感じた。
しかし、後から家の者に聞くと救急車の到着はびっくりするほど早かったそうだ。
冷静に考えれば早いはずだ。
その救急隊を派遣した消防署はウチから徒歩で5分ほどの距離なのだ。
それでも救急車の到着までの時間は長く感じた。