命の終わり方

いつか必ず訪れる永別は突然来るものだよ

昏睡

いつものようにおばあちゃんを起こしに行った嫁に
「おばあちゃん、声をかけても起きないんだけど。。。」
と言われるまでは、平凡な日曜日の朝を迎えるはずだった。

2階にあるおばあちゃんの寝室に行くと、ベッドの上で静かに寝ている。
でも呼吸の音がおかしかった。
その音は浮き輪に空気を送る空気入れの操作音のような、浅くてテンポの速い乾いた音だ。
嫁の話ではおばあちゃんの寝息はいつもこんなもんだというではないか。
いや、絶対におかしいでしょこれは。

おばあちゃんに声をかけてみる
微かに目を開けて反応するが意識は朦朧としているようだ。
問いかけに反応はある。
でも起きない。
おばあちゃんの顔を良くみると、唇が僅かに紫がかっているではないか。
これはやばい。
声をかけても起き上がらないおばあちゃんの状況が普通ではないことを強く認識した瞬間だった。

年寄りと同居していると、こういった事態は常に想定しておくものだ。
実際にトレーニングを受けたことはなくても、想像し得る限りの緊急事態をイメージしながら、そのイザという時の対応をシミュレーションしている。
しかし実際にその「イザ」を目の当たりにすると、人は想像以上に狼狽するのだ。

苦しそうに呼吸をするおばあちゃんの体を動かそうかと逡巡したが動かせなかった。
なぜなら怖かったから。
少しでも動かしたらそのまま壊れてしまうような気がして、おばあちゃんの体に触れなかった。
テレビドラマで見るようなカッコいい振舞いなんて実際には出来ないのだ。